Twilight

白日の喧噪が薄らぎ万物がその形姿を背景に溶け込ませる日没時、 今日を振り返り、明日に思いを馳せる。
窓に明かりが灯り、会話が始まる。
明日も良い一日でありますように.......。
Stone cutter (鉱物研磨職人) Aquilax O

水中? 宇宙?『ミクロコスモス』ドミニカンブルーアンバーの世界

      2017/03/31

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Decision

今月の後半、この一点にかかり切っていたような気がする。
そもそも私の仕事は遅い。
原石に最初のカットを入れる、それは大概の場合、極力無心に、自己の経験値だけを信じて判断をする。
それは勘といえば言えなくもないが、そんな迷信的概念とは違う。自然の法則に裏打ちされた規則性との勝負だ。

最初のカットを入れる前、原石のアウトサイド、たとえば母岩の状態。それは泥岩質だったり固いロック状であったり、鉱山による特徴や採掘された地層の深度、地殻変動などによって異なる。次に内部に通っているであろう石目、亀裂、内包物といったインサイドを見通してカットへの筋道を立てる。ここで確信が得られれば次の作業に進む。得られない時には一旦引き出しに保管、他の作業が手離れした時、再び持ち出しては観察を試みる。数ヶ月の時もあれば数年に及ぶことも。それでもなおカットに至らない、ということも珍しいことではない。

ターコイズではそのような経験はほとんどない。大半はドミニカの琥珀、それも発光性ブルーアンバー。不思議なことにグリーンやパープル、ラヴェンダーなどの場合、迷うことはほとんどない。
なぜか? なぜだろうか?

多分こうなんだろう。
自分の中に確固たるブルーアンバーの理想像というのがあって、その理想像を満足させてくれる原石なのか、そうではないのかを見極めたい。脳の中のドーパミンが勝手にそのプロセスを楽しんでいるのだろう。
反面、ブルーアンバーに挑み始めたまだ小僧っ子だった頃、経験もなくただやたらと貴重な原石を無駄にしてしまった。当時、上質なブルーアンバー原石は今から比べればはるかに入手が容易だったし、豊富だった。しかし原石は一度カットしたら最後、そのパートは二度と復元はできない。そんなトラウマに囚われての葛藤だろうか。
琥珀は鉱物ではなく化石。その化石に蛍光発光という複雑な化学反応が作用する。すべては自然がなせる技。その自然を自分の理想像に重ねようということそのものに無理があるのかもしれない。つまりは傲慢性ということか。

標本=Specimen

どうしても原石と自分との間に距離を感じる時にはパートカットという手もある。原石のこれはと思われる狭い部分を数段階の工程を経て、仮の仕上げ面にまで磨きこむ。それが有効な時もあるが、むしろ危険な時もある。
ことわざで恐縮だが、まさに『一斑を以って全豹を卜す』なのだ・・・ドミニカン・ブルーアンバーの場合は・・・。

母岩に包まれたブルーアンバーの原石、原石から顔を出した一部分が「青い」?
そりゃぁ当然というもの。原石の一部がいかに磨かれていたとしても、その背後にあるのは母岩に覆われた闇。
ブルーアンバーという琥珀の特性からすれば、パートカットされた標本=Specimenの青というのは大概、濃い青として人間の目に届いてしまう。原石の内部に在る真実のすがた、全面をカット研磨した後の発光色とは懸け離れていることがほとんどだ。最初の頃はこのトリック性が読めなかった。読めなかったが故に、どれほど仕入れ資金をドブに捨て去ってきたことか。

La Bucara 7.30カラット

tw1600623-004きょうのこの7.30カラット、原石を手にしたのは3年以上前、現在2+1トップページのカテゴリー別アイキャッチにある真横から撮影したカット「ドミニカン ブルーアンバー 11.10 ct. 」と同じ頃のもの。鉱山はブルーアンバーファンにはおなじみの名鉱La Bucara。
この鉱山から採掘された原石の中でも超一級品のいくつかは世界有数のブルーアンバーコレクションとして保管されています。コレクターの方のご意向により、すべては非公開ですが、仕事としての痕跡はブログの過去記事に一部残してあります。
tw1600623-005この一点、サイズこそ7.30カラットと小ぶりです。しかしドミニカン・ブルーアンバーの一級品としての素養は十分に備わっている。
La Bucara特有の液体にも似た透明度。均質で緻密な琥珀組織。
カットに取り組んだ時に心がけたことは、完成時、黒い背景の前に置いた時、それは海の中の世界を表現していなくてはならない、ということ。
この仕事ではインクルージョン、ガス痕、グリーッターそれらすべてを含めて、唯一無二の世界を現出させることに意識を注ぎ続けたと言える。
tw1600623-006tw1600623-007ここまではブラックバックを背景に、やや斜めからのスタジオライトでの撮影。
ブルー、グリーンそしてかすかなパープルなどはすべて「発光色」、キラキラと煌めく小さな輝きは内部に留保されたガスによる微細なピンホールによる煌めきの群れ。浮遊する大きな内包物は化石化した数千万年前の植物質、命の痕跡。

次の写真ではこれまでなかったオレンジや赤のフラッシュが出てます。この赤やオレンジはブルーアンバーの蛍光発光色ではなく、内部で屈折拡散を繰り返しての透過光による色です。
tw1600623-008最後の写真です。
バックはオフホワイト。絵画を描かれる方であればお馴染みのWATSONというペーパーがバックです。より白度の高いケント紙やアクリル板というのが常套ですが、ここでは乳白色系のWATSONです。
青の発光色を抑えたナチュラル感のある写真にしたいと考えての選択です。

当初24日がリリース予定でした。直前になって底面に残った一点が気にかかり、再度の手入れ。7.90カラットは7.30カラットでのフィニッシュとなりました。
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静寂 そよ風 潮の香

自分の状態が良い時、日々の時間が澱むことなく流れている時、この仕事にはそれが一番です。
市井としての狭い世界であっても周囲の空気、友人たちとの関係、家族の心の在り処、社会との対話、目にする景色、といった受動的なことごと。それら要素は数かぎりない。しかし要点は「幸せ」と感じられること。「幸せ」な時を育もうという努力。

老生にとって仕事を考える上では一番大切にしなくてはならないのは体力ではなく澱むことのない時間、そう考えている。
幸せと感じられる時の流れに沿って、石と対峙すること。

日差しが強くなるこの季節、優しい「そよ風」。
街から奥まった仕事場は常にそよ風に洗われている。
耳に届くのは樹木の枝を揺らす風の音。谷戸を泳いできた風には微かな潮の香り。郭公の楽園。
陋屋には違いないが、この静寂は極上の豊かさ。
木漏れ日に囲われた古刹の境内にも等しい贅沢な世界
蚊遣り香と静寂な時間の流れから生まれたLa Bucara7.30カラット、自然の摂理に抗うことなく素直に取り組めた一作です。

ドミニカン・ブルーアンバー7.30ct.Workページへ → 完売しました。

 

 - ドミニカ La Bucara, 琥珀(コハク=アンバー)