Twilight

白日の喧噪が薄らぎ万物がその形姿を背景に溶け込ませる日没時、 今日を振り返り、明日に思いを馳せる。
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明日も良い一日でありますように.......。
Stone cutter (鉱物研磨職人) Aquilax O

ジェム シベリアン クロノクリア 213.90ct.

      2016/12/31

ナチュラル シベリアン・ジェム・クロノクリア 213.90ct.フォルスネーム=セラフィナイト。市場にはほとんど出てこないジェードグリーンのクロノクリア

カンナとノコギリ

工でカンナを挽く時、木目に沿って挽かないと木肌は哀れなことになってしまう。石をカット研磨なさる方は少数だと思いますが、木工を経験なさった方は多いのではないかと思い、そんな比喩で話を始めてみようかと思います。

とは言っても木工は門外漢、トンチンカンなことを書いてしまいかねませんが、クロノクリアのカット研磨について、天然石研磨職人としてこの石の特性をなるべく解りやすくお伝えしたいと思いますので、木工に関して多少の理解不足はご容赦ください。

木工ではカンナ以外にノコギリもよく使う道具です。面白いのは押す時に力を入れる押しノコと引く時に力を入れる引きノコがあるということ。ノコに限らずカンナにも押しと引きがあるんですね。

調べてみると、日本は引く時に力を入れる引き文化ということです。

ノコの場合、引きノコは押しノコに比べ、歯が薄い。対して欧米などで一般的な押しノコは、押した時の湾曲を防ぐために歯が厚い。歯の切れ味、切断面の美しさということでは引きノコに軍配が上がるようです。

ノコには木材が持っている年輪に対して横引きと縦引き、木質の密度や加工する大きさによって粗目、中目、細目、極細目。 私が目にした一番粗いノコは真夏の氷屋の店先、シャッ、シャッと涼しげなリズムを刻む氷鋸、ジョーズの歯のようなノコです。指先が触れただけで、血が滴るであろう恐ろしい奴。

反対にシルクのような肌理細かい刃のノコ、彫金家やハンドメイド・ウォッチ職人さんが使う精密切削用カナノコ。10分の1ミリ単位での仕事が可能だそうです。歯に指先を滑らせると心地よい感触が伝わるほど刃が詰んでる(指の皮が厚いからか?)。熟練した職人さんは、この刃を自在に駆使して直径数ミリの歯車を製作したり、ジュエリーの優雅な曲線、面を自在に調節しながら表現します。


カンナもノコも木工に限って考えた場合、その素材(木材の種類)、サイズ(東大寺>江戸指物>箱根細工といった加工規模による広汎さ)、年輪の密度(バルサ材>黒檀>ブライヤー)などによって、取り組む素材に適した道具というものがあるわけです。 ここで挙げた「押すのか引くのか」、「密度が粗いか細かいのか」、「縦なのか横なのか」、「素材や工程による力の強弱」、それら各要素による加工道具の選択と使い方は、石の加工にも当てはめることができます。

クロノクリアの場合

この鉱物の産地はシベリアのツンドラ。 昨年「シベリアン ジェム クロノクリア(セラフィナイト)25.30ct」でも触れてますが、構造的には珪酸質の「薄い層が無数に重なり合い硬化したもの」また「雲母の硬度を高くした」鉱物です。

--->クロノクリアのアーカイブ

これまで何点かリリースしてきましたが、重なり合った薄い珪酸質の層をどのようにカット処理するべきか、正直なところ決定的な結論が得られませんでした。工程を進めながらの試行錯誤、というのが正確な表現だと思います。 結果的には石内部の美しい層に辿り着き、ジェムルースとしてリリースできましたが、工程途上で原石の大半が失われたというのが実際でした。


今回の原石もまたかなり大きく300グラムは超えていました。 まず石の表と裏を見分けなくてはなりません。次に薄く幾重にも重なった層の方向性、これを見誤ると次々に薄片が剥がれ、原石はただただ小さくなっていくだけです。まるで玉ねぎの皮を剥いていくように。

研磨機の回転部分を支持している軸受け、その内部では二十数個のベアリングが回転を支えています。このベアリングが磨耗して回転精度が狂うと軸はブレを起こし振動が研磨面から石へ伝わる。その微振動でさえ、この鉱物には禁物です。まずその整備から着手する必要がありました。


石の切断もまた細心の注意が必要です。通常使っている厚み1.25mmのブレードは使えません。その約四分の一、0.32mmという薄い刃で慎重にカットし形状の大枠を決めます。それでも切削を急ぐと原石の角は欠けてしまう。

研磨工程でも#80、#220のGRINDING WHEELはおろか、#280、#600のSANDING WHEELも使えません。スタートは#1200グリッド。木材で言えば柾目に沿ってカンナを当てていく、そんなイメージです。


なだらかな曲面を研ぎ出すのも容易ではありません。薄片の層は石目に沿って水平に重なり合っています。数百枚重ねた薄い紙の小口をなだらかな曲面に磨き出すような作業です。 回転する研磨面に対して石の面を押すように研ぎ当てるのか、反対に引くように研ぎ当てるのか、これは呼吸以外の何物でもありません。 薄い層と層との重なりをどこまで滑らかに磨き上げるか。江戸指物でおなじみのミクロン単位でのカンナ仕事に似た技を石に置き換える、そんな感じでした。


そのような作業の積み重ねが、この原石の最も堅牢な部分の取り出し、研ぎ出しに繋がった次第です。 結果は信じられないほどの堅牢さ、シルクのような美しい模様、艶やかな透明感、全体が光を透過する半透明な宝石質クロノクリアとして完成させることができました。

クロノクリアについてはブログ内検索もしくは左欄のカテゴリー「珍しい鉱物」からアーカイブをご覧いただけます。

 

この商品は完売しました。ありがとうございました。

 

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